『レオナルド・ダ・ヴィンチ 天才の実像』@東京国立博物館

lunedì, il 26 marzo 2007
sono le ventidue




 久しぶりの雨が降った25日(日)、たまたま上野に出掛ける用事があったため、東京国立博物館で開催中の『レオナルド・ダ・ヴィンチ 天才の実像』を観て来ました。

 レオナルド・ダ・ヴィンチの《受胎告知》は1939年以来の館外持ち出しであり、来日は勿論これが最初で最後かも知れません。また数多くのメディアでも取り上げられており、今年で最も大きな話題を攫うイベントであろうかと思います。

 本展はまた、いつも御世話になっている池上先生が監修に当たってられるということもあって非常に楽しみにしていました。今年の頭に『西洋絵画の巨匠 8 レオナルド・ダ・ヴィンチ』が、そして直近でも芸術評論誌「ユリイカ」での『レオナルド・ダ・ヴィンチ特集号(第39巻第3号)』と続けて先生による非常に興味深い評論が上梓されており、鑑賞に当たっての大変有益な情報源となりました。ちなみに池上先生は、本展開催を受けてメディアへの登場の機会も多くなってられるようですね。

 さて第1部の《受胎告知》については、21日の開幕以来かなりの来場者数で混雑している様子を聞いていましたが、その日は風を伴った大雨の後とあって来場者はとてもまばらでした。並ぶことも無くすぐに展示室に入ることができ、かつゆっくりと時間を掛けて見ることができました。2004年にウフィッツィで見た際には自然光の中、数10センチの距離まで迫って見ることができましたが、今回は薄闇に照明光の中での鑑賞ということで、作品の見え方もかなり異なりました。ウフィッツィでは保護ガラスの反射もあってうまく観察できなかった部分も、この環境ではガラスを気にすることなく細部がよく見えます。光の温度が低めで、少し黄色がかったものになっているので、自分の中で多少の補正をして見る必要があるかも知れません。

 さすがに見事なもので、要所にレオナルドの筆の特徴を見て取ることができました。衣類に見られる装飾の美しさは、様式美と言ってよいかも知れませんね。髪の毛の自然さや、背景の雄大な自然、植物の精緻な描写などレオナルド独特のものではないでしょうか。

 そして第2部として平成館では、レオナルドの「自然を見る眼差し」をテーマにした展示がされていますが、こちらもボリュームのある内容となっています。レオナルドが自然の様々な様相をどう捉え理解し、どのように絵画上の表現へと昇華させていったかというストーリーに従った展示になっています。

 感想としては、レオナルドの絵画以外の分野についての展示としては、これまでにない画期的なものになっているかと感じました。ただ展示スペースの制限もあるのか、どうしても雑然とした印象は否めません。とは言いながらも、レオナルドの思考の渦に巻き込まれたかのような印象を得ることができ、逆にこれでも良いのかもという気がして来ました。なんと言っても、それぞれの展示内容が非常に濃いと思います。これだけの広がりを持つものを、一時の展覧会で全て網羅することは不可能に近いでしょう。ちなみに今回の展示に当たっては、当初イタリアでは含まれていた音楽や化石についてのものは省かれているそうで、更にそういった印象が強まります。

 個人的には、数学への取り組みの紹介や、ウィトルウィウス的人体図に関する歴史を綴ったビデオは勉強になりました。ヴィラール・ド・オヌクール、マリアーノ・ディ・ヤコポ(タッコラ)、ビンゲンのヒルデガルト、ジョルジオ・マルティーニなどによる同様の図像の遷移は大変興味深い。スフォルツァ騎馬像の迫力も、レオナルドの人並みはずれた発想の大きさを感じさせます。



左:《ウィトルウィウス的人体比例図》、レオナルド・ダ・ヴィンチ
右:ビンゲンのヒルデガルト(Hildegard von Bingen)による人体比例図


 伝レオナルド・ダ・ヴィンチとされている《少年キリスト像》のテラコッタ像の自然な美しさも、レオナルドの特徴をよく伝えていて素晴らしいものがありました。



《少年キリスト像》、伝レオナルド・ダ・ヴィンチ


 また図録も、これまでになく美しい図版と充実した解説文が掲載されており、情報源として重宝するかと思います。特にジョルジョ・マルティーニの『建築論』、ヴァルトゥリウスの『軍事論』、ルカ・パチョーリの『算術、幾何、比と比例についての大全』といった書物のファクシミリ版が、日本の大学でも所蔵されていることが分かったことは幸いでした。ある所にはあるものですね〜。

 また今後、長い列が並ぶ日が続くかと思いますが、是非この機会をお見逃し無いよう!

コメント

こんばんは
ご無沙汰しております。
ようやく、僕もこの展覧会へ行くことが出来ました。
今回初めて「受胎告知」を見たのですが、予想以上に素晴らしく、感動しました。やはりレオナルドの繊細なタッチは、写真では再現は不可能ですね。
「少年キリスト像」の穴は、僕も気になりました。
TBさせていただきますので、よろしくお願いいたします。

>Takさん
図録P45で、《最後の晩餐》のキリストと比較した図版がありますがかなり似てますね!

>mizdesignさん
平成館も、もう少し人が空くといいのですが・・・。それにしても、これだけ広い視点からレオナルドを扱ったケースはないでしょうね。

>とらさん
穴、開いてましたね。テラコッタで造られていることがヒントなのかもしれませんね。もともとは、下半身まで含まれた立像として、後ろ側の支えと繋ぐためだったとか・・・。今度、池上先生にお聞きしてみましょう!

そういえば、レオナルドのものと伝えられている彫像はもう一つあるそうですね。こちらで発見しました。

http://www.1000questions.net/fr/arts-et-cultures/images/leonard_eleve_cheval_cabre_b.jpg

おはようございます。

雨の日曜日の鑑賞、マタマタのニアミスでした。

少年キリスト像は後に回ってみると大きな穴が二つあいていましたが、あれは何なんでしょうか?

こんばんは。
マーティン・ケンプの本も、残すところあと少しです。
手稿に関して系統立てて解説してあるので、今回の展示のサブテキストにピッタリかと思いながら読み込んでいます。

読み終えたら、もう一度観に行こうと思っています。今度は平成館の展示もスムーズに頭に入る!?

こんばんは。

「少年キリスト像」は観る角度によって
全く違った表情を見せてくれますね。

図録は充実し過ぎていてまだまだ
読みこなせていません。

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