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アイスマンのハプロタイプ

 エッツィー(Oetzi;通称アイスマン)は生前、人間社会においてどういった存在であったのか。その遺体発見以来、そういった疑問はあったのですが、サンプルとなる他の遺物の少なさからなかなか推測できていませんでした。分かっていたのは、体内に残されたままの矢尻と手の傷跡から何らかの戦闘行為の後に死亡したのだろう、ということだけ。

 その疑問に一つのヒントを与えたのが、今回のDr Franco Rollo(University of Camerino)によるDNA検査によって得られたハプロタイプ(Haplotype:haploid genotype)の結果となる。

 人間を含む真核生物のうち、有性生殖で子孫を残すものは2組の線状染色体をもつことになる。この染色体のペアを二倍体(diploid)と言うが、この2つの染色体は両親の生殖細胞(精子と卵子)の結合で得られたものになる。そしてハプロタイプはこの染色体における、片方の親から受け継いだDNAの組み合わせを表します。

 面白いのは、人間の男性に存在するY染色体が必ず男性の親から受け継いで行かれる点で、このY染色体を追っていけば父系調査が可能になる。ちなみに今騒がれている男系天皇の系譜とは、突き詰めればこのY染色体の系譜だと言える。そもそも初代から切れ目がないなどというのは眉唾だし、なんの証拠もないのだから、Y染色体の存続に拘るのであれば別の対応を考慮するというのが現実的だと思うのだが・・・。

 また染色体以外にも細胞内小器官であるミトコンドリアは独自にDNA(mtDNA)を持ち、こちらかは必ず女性の親から受け継がれ、逆に母系調査の決め手となります。

 上記のようなハプロタイプの違いをもとに人間を集団に分けた場合、類似のハプロタイプを持つ集団をハプログループ(Haplogroup)という遺伝的集団と定義でき、地域的にどういったハプログループが存在しているかをマッピングすることで、人間の移動の歴史などを考察できるようになるのです。

 ということで、今回判明したエッツィーのハプログループはというと、"K"というグループに属するらしい。これは現在のアルプス南北の地方に見られる比較的珍しいグループとのこと。

■(参考)Y染色体とmtDNAによるハプログループの分布図
http://www.scs.uiuc.edu/~mcdonald/WorldHaplogroupsMaps.pdf


 さらにエッツィーのハプロタイプには生殖不能の特徴が見られるという結果が出されている。正確には精子の運動性が弱体する性質のようですが、エッツィーが子孫を残せない遺伝的性質を持っていたという可能性があるということ。

 エッツィーが必ず子孫を残せなかったとか、そのことが当時の人間社会においてなんらかの評価をエッツィーに与えていたといった証拠はありませんが、可能性として集団から排除されたということは推測の一つとして浮かび上がってきているようです。

 そうなると、社会的排斥の対象として集落を追われた後に死亡、というちょっとドラマチックな展開が見えてきて、また想像力を掻き立てられますね。DNAが残っていると、こういった可能性を示すことができるという点でとても興味深いニュースでした。


(※参考)

■Infertility link in iceman's DNA:@BBC Newa

■Atlas of the Human Journey - The Genographic Project:@https://www9.nationalgeographic.com/genographic/atlas.html

■HapMap ホームページ:@http://www.hapmap.org/index.html.ja

2006.02.11 Saturday 13:42 | comments(0) | trackbacks(0) | 古人類学 |