2022.09.25 Sunday
美術館訪問記録-[イザベラ・スチュワート・ガードナー美術館(Isabella Stewart Gardner Museum)]
ボストンで訪れた美術館の紹介、第二段はイザベラ・スチュワート・ガードナー美術館(Isabella Stewart Gardner Museum 略ISGM)となります。ボストン美術館から歩いて5分程度の場所にあるので、美術館のハシゴも可能です。個人名が名称となっていいますが、資産家でありまた芸術家のパトロンでもあったイザベラ・スチュワート・ガードナー (Isabella Stewart Gardner) によって創設されたものです。ちなみにこの美術館、5億ドルとも言われる美術界で最大規模の盗難事件にあったことでも有名(?)です。
この美術館を語る上でのポイントは、大きく以下の3つと言えると思います。それぞれのポイントについて簡単にご紹介します。
(1)ヴェネツィア様式の建築としての構造美
(2)ルネサンス期を中心とした幅広くかつ良質の作品群
(3)インテリアと一体化したレイアウトの表現美
(1)ヴェネツィア様式の建築としての構造美
ヴェネツィアのルネサンス風邸宅をモデルにして設計された建物で、広い中庭を中心として吹き抜けの空間が確保されています。色とりどりの花が咲き誇る中庭は非常に美しいもので、季節によるものもあるかも知れませんが、私が訪問した際には青い花が綺麗に咲いていて、多くの観光客がいる中でもとても落ち着く空間に感じられました。美術館としては3階まで入れるのですが、中庭を囲む各階の回廊からの眺めも素晴らしいものがありました。基本的には石造りとなっていますが、途中の階段や広間の床には木やタイルが使われており、ルネサンスの趣を感じさせます。アメリカ国内にあって、あえてヨーロッパ風に仕上げている空間という意味では、ニューヨークのクロイスターズ美術館を思い出させるものがありますね。ただクロイスターズが修道院を模しているのに対して、こちらはより個人の邸宅をイメージしたものとなっています。美術好きにはある種の理想の住まいですね。
(2)ルネサンス期を中心とした幅広くかつ良質の作品群
ちなみにこの美術館、少し困ったことに作品のキャプションが全く掲示されていません。作品そのもの、そして作品と一体になった空間そのものを感じて欲しいというイザベラの理想とするところが垣間見えます。他の観光客もそれが気になるらしく、ガイドの方にどうしてキャプションが無いのかを聞く声が聞こえてきました。なお、その代わりにWeb上(URL)での情報提供が充実しており、必要な人はスマホ片手に鑑賞することを勧められています。
#1
ISGMは多くの聖母子像を所有していますが、代表的はやはりこちらのサンドロ・ボッティチェッリのものですね。青・赤・金の色彩の対比がまず目に飛び込んで来ます。ボッティチェッリの作品としては比較的に初期の作品とされていますが、既に完成度は円熟を思わせるレベルに達していますね。聖母が手にしている小麦は復活の象徴ですが、小麦の色彩が髪の毛の金色と近似していることが、上手く視線を聖母とキリストから左下へ誘導しているように思えます。
#2
ボッティチェッリのもう一つの作品、キリストの降誕を描いた小ぶりなロトンダ。こちらはもう少し後年の作品です。個人でボッティチェッリの作品を複数所有していたこと自体が驚きですが、それぞれの作品の質が非常に高いことがより驚きです。
#3
こちらはピントゥリッキオによる聖母子像。縦30cm程度の小さな作品で傷みも目立ちますが、聖マリアとキリストの表情により自然さと優美さが表現された良い作品です。ピントゥリッキオは、植物などの緑色の背景の表現と色彩に優れていますが、こちらの作品も生き生きとした緑の中に、崖の上に立つ城と農園が左右に対比的に描かれ、遍く世界を俯瞰したような感覚でしょうか。こういった良品が、ふとした扉の裏側にしれっと飾られていたりして、発見した際におおっと思わせるところが粋です。
#4
ジュリアーノ・ダ・リミニによる祭壇画で、とても保存状態も良いものです。元はアッシジの聖キアラを奉じる修道会からの発注とのことで、左端上段にアッシジの聖フランチェスコ、その下に聖キアラが描かれています。また聖フランチェスコと対をなすように右端上段にマグダラの聖マリアが、同じような岩場の表現と共に描かれていることも興味深いです。
#5
所蔵作品の中には、こちらのような日本画もあり、ヨーロッパ美術のみならず世界各国に渡る銘品が展示されていました。こちらは宇治川の戦い(1184年)での佐々木高綱と梶原景季との先陣争いを描いたもので、17世紀後半の作品とされています。狩野元信の落款があるとのことですが、作品上では確認出来ませんでした。
(3)インテリアと一体化したレイアウトの表現美
美術作品をインテリアや内装に合わせて展示することが設計されており、各部屋に特徴があったことも印象的でした。
#1
ジョン・シンガー・サージェントの傑作、"EL JALEO" (1882)を大胆にも回廊の突き当りの暗がりに配置し、薄明かりの中でフラメンコを踊る様子を臨場感を以て鑑賞させるような配置となっています。
#2
1階の回廊の別の一角には、Spanish Chapelという礼拝設備が配置されており、そこにもスペインで入手した騎士の棺彫刻や絵画が礼拝堂を模して展示されています。
#3
2階の"Tapestry Room"(タペストリーの間)と題された部屋ですが、照明を落として薄暗い中での鑑賞するものとなっています。北ヨーロッパの城の内部を模した空間とのことで、中世ヨーロッパで壁掛けに使われた大型のタペストリーや宗教画を、まるでお城で催される晩餐会に招待されたかのような感覚で鑑賞することが出来ます。
#4
3階の"Long Gallery"と題された空間では、廊下をギャラリーに見立てた展示となっており、中世から近代までの様々な作品を時代を追うかのように鑑賞出来ます。廊下の端には、フランスのソアソン大聖堂のものとされる13世紀のステンドグラスが礼拝堂風に展示されており、こちらも素晴らしいです。
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